【屋上で死んだ少女】ｵｸｼﾞｮｳﾃﾞｼﾝﾀﾞｼｮｳｼﾞｮ


【屋上で死んだ少女】とは、神奈川県S市内で流布している都市伝説である。


とある高校に通う少女が、ある日突然「屋上で死にたい」と言うようになった。
友人たちは初めこそ性質の悪い冗談だと受け流していたが、
彼女がその言葉を口にする回数が日に日に増えていったため、
何故そんなことを言うのか、なにか悩みがあるのではないか、
などと何度も問いただしたが、彼女はただ笑うだけで、
何故「屋上で死にたい」のか、理由を話すことは決して無かったと言う。
それ以外は変わった様子が無かったため、
友人たちは不審がりつつも今までどおり彼女と付き合っていた。

数日後、少女は廃ビルの屋上で変死体として発見された。

屋上という場所から連想される死に方としては飛び降り自殺があるが、
フェンスや床には彼女が身を投げようとした痕跡は無かったという。
死体には外傷も無く、毒物の類も検出されず、
死因については全くわからなかったと言われている。

学業にも素行にも問題はなく、家庭は至って円満。
警察の調査でも事件に繋がるような事柄は見つからず、
彼女の死については何一つ解らないままだった。

そしてまた数日後、彼女の友人たちも「屋上で死にたい」と口にするようになり、
場所は違えど、いずれも屋上で奇妙な死を遂げたという。


構成自体はいたって単純な話だが、
何故彼女たちは「屋上で死に」たがったのか。
何故この話がS市のみで語られるのか。
そして、何故都市伝説に見られる派生型（少女が少年になっていたり、
呪いやウィルスといった理由付けがされているなど）の話が一切無いのか、
不可解な点が多々見受けられる。

【屋上で死んだ少女】が語られる際は、語り手による巧拙や若干の脚色はあれど
必ずこの内容であることから、原型となる何らかの事件や
出来事があったのではないかと推測しているが、
詳細については未だ不明なままである。


―――化想社発行『都市の風説』より引用。

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